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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)44号 判決

控訴人 星野和二

被控訴人 神田郵便局長

訴訟代理人 藤堂裕 田井幸雄 ほか六名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四六年五月七日付でなした俸給額一〇分の一の減給一ケ月間の懲戒処分は取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか原判決の事実摘示と同一であるので、これを引用する。

一  控訴人の主張の追加

本件腕章の着用は、全逓信労働組合(以下「全逓」という。)の闘争の一環としてなされたものであり、正当な組合活動に属するが、当局側は職場委員の控訴人が郵便課窓口係として腕章を着用して勤務することを嫌忌し、同課通常係に配置換えをし、これに伴う勤務の指定をしたのであるから、全逓の組合活動に不当に支配介入したものというべきである。したがつて、たとえ窓口係から通常係への配換置えが不利益取扱いに該当しないとしても、本件配置換えは全逓の組合活動に対する支配介入として不当労働行為(労働組合法七条三号)にあたり無効というべきであり、かつ、右勤務の指定は「勤務時間および週休日等に関する協約」付属覚書一九項但書に違反し違法なものである。

二  証拠関係〈省略〉

理由

当裁判所も、控訴人に対する本件担務変更および勤務の指定は違法なものではなく、この担務変更命令および勤務の指定を拒否して職務を放棄した控訴人の態度は国家公務員法八二条各号に定める懲戒事由に該当するものであり、本件懲戒処分には違法事由は存しないものと解する。この理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の説示のとおりであるので、これを引用する。

一  原判決六三丁(記録七五丁)表三行目冒頭から同五行目末尾までを、次のとおり改める。

「(二)原告は、本件担務変更命令は、労働条件(就業の場所、従事すべき業務の内容)を不利益に変更するもので、一方的にできる法的根拠がないにもかかわらずなされているのでこれに従う義務はないと主張するので、この点につき判断する。」。

二  原判決六七丁(記録七九丁)表四行目「そもそも」以下同五行目「解されるのみでなく、」までを、次のとおり改める。

「そもそも本件担務変更命令は、前述の原告の郵政職員としての勤務関係に基づいて任命権者が原告に対し労働の場所・種類・態容を決定、変更しうる権能を有しているのでこれに由来して行なつたものと解されるのであつて(労働の場所、時間等の労働条件について協約のある場合には、任命権者がこれに拘束されることはいう迄もないが、前述のとおり本件のような担務変更について職員の同意を要するとの協約がなされているとは認められない。)、」

三  原判決七〇丁(記録八二丁)表九行目末尾に、次のとおり挿入する。

「また、原告は本件担務変更命令が組合活動に対する支配介入として不当労働行為にあたると主張するが、前認定のとおり腕章着用のままの郵便課窓口事務就労は、就業規則の規定に違反する許されないものであるので、右命令をもつて不当労働行為に当らないことはいうまでもない。」。

四  原判決七一丁(記録八三丁)表一〇、二行目「郵政省就業規則二六条」を、「郵政省就業規則二五条」に改める。

五  〈証拠関係〉

六  原判決七一丁(記録八三丁)裏一〇行目末尾に、次のとおり挿入する。

「なお、〈証拠省略〉によると、担務指定および変更について、従来からこれを管理運営事項と主張する当局側と、労働条件であつてしかも一たん指定された担務の変更は労働者の同意を必要とすると主張する全逓側との間に紛争があり、この争いは右覚書〔編注:郵政省と全逓信労働組合との間の「勤務時間及び週休日等に関する協約」付属覚書〕の締結に際しても見解の一致をみることなく、争いを残したまま、右付属覚書が締結されるに至つた。そして、右覚書一九項の郵政省側の原案では、但書がなく、「原則として……当該期間の開始日の一週間前までに、関係職員に周知するものとする。」という表現が用いられ例外の場合には全く言及されていなかつたため、全逓側の反対で、「原則として」を削り、但書で例外事由を限定しようという趣旨で、同項の但書が設けられ覚書の締結に至つたことが認められるが、右但書の適用にあたつて特に職員の同意を必要とするとの協定がなされたものとは認められない(〈証拠省略〉の中の覚書一九項但書に関する説明のうち職員が同意しない担務変更に応じてはならないとしている部分は、全逓側の見解を述べているにすぎず、これにつき郵政省側と合意があつたとの証拠がないので、右認定を左右するものではない。)。従つて、右覚書一九項但書については以上認定の事実をふまえて郵政省側の人事管理権と職員側の利害との調和をはかり客観的に妥当な解釈をするのが相当であるところ、前認定のとおり正常な業務の運営を確保する必要上なされた本件担務変更命令が適法正当である以上、この担務変更に伴ない従来とは異なつた服務表の適用を受けなければならないような場合について、右一九項但書の「転入者」に準ずるものとして同項但書の転入者「等」にあたるものとして勤務指定が行なわれても、これをもつて右覚書に違反するものとは解されない。けだし、右但書を設けた経過は前認定のとおり当局側が職員に対し勤務の指定をする際、職員側の利益を配慮し一週間の猶予期間を設けることを原則としているので、その例外としてこの猶予期間を設けないで勤務の指定をなしうる場合を新規採用者・転入者・復職者・欠勤者「等」に限定し、例外的勤務の指定が濫用せられないように枠をはめたものであるところ、右例示にかかる職員は新たに特定の職務に服する者であつてこれらの者に対しても一週間の猶予期間を設けて勤務指定をしなければならないとなると事実上右一週間は全く服務できないこともあり不都合を生ずる(これに反し、従来と同じ職務に服している者に対する勤務の指定についてかかる不都合が生じる余地がない)ので、人事の効率上このような場合は右一週間の猶予期間をおかないで勤務の指定ができるものとする例外的取扱に合理性があるわけであるし、この枠でしぼる限り職員にとつてのある程度の不利益もやむを得ないとしたものと解すべきである。そして、右のように「新たに特定の職務に就く者」は右例示の者のみでなく、その他の場合も予想されるがこれを網羅的に細大もらさず列挙することが至難であるのでこれらの場合をも含める趣旨で末尾に「等」を加えたものである。それ故、本件の場合も右説示の理由で右但書にあてはまると解するのが相当だからである。

もつとも、ある職員の担務の変更に伴い勤務の変更指定をしなければならない場合でも、右一週間の猶予期間を設けうる余裕のあるときは本文の原則に従つて、右猶予期間を設けた上で担務変更および勤務指定をすべきである。しかし、本件で前説示のように本件担務の変更自体はこれを直ちに行う必要があり、かつ、それは正当であると解するので、これに伴う勤務の指定も但書による例外的取扱をすることが許されるのである。」。

よつて、控訴人の本訴請求は理由がなく棄却を免れず、原判決は相当であるので、控訴を棄却すべく、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤利夫 小山俊彦 山田二郎)

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